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都健康長寿医療センター 井原 涼子 医師に聞く レカネマブ発売から3カ月(後編)
  • 2024/04/10
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認知症薬新時代の第一歩 患者に合った選択可能な時代へ

専門外来では、レカネマブの有効性と安全性のほか、副作用や通院の負担、費用負担についても時間をかけて専門医から説明を受ける。費用面では、体重50キロの患者で薬価の公定価格は年間298万円。仮に3割負担の場合、月2回の投与で20万円の負担となる可能性もある。

「月20万円の負担で27%の抑制効果を、高いと考えるか否かは、患者の年齢やそれぞれの事情によって異なると思います。だからこそ、可能な限りご家族と来院して、相談しながら決めるのが望ましいと考えています」(井原医長)

最終的には、脳内でのアミロイドβの蓄積を確認するためのアミロイドPET検査か脳脊髄液検査を実施し、適用基準を満たすかを判断する。初診からおよそ1カ月~1カ月半で投与が始まる。また投与とは別に、投与開始後およそ2、4、6カ月目で副作用の有無を確認するためのMRI検査を行うことも必要だ。

厚労省の最適使用推進ガイドラインでは、専門的な検査や処方・投与を一体的に実施でき、認知症や軽度認知障害の診断や診療経験が10年以上ある専門医が複数いる医療機関での投与が要件とされている。

投与対象はごく一部

レカネマブの適用基準は厳しいため、投与を希望しても対象とならない場合は少なくない。さらに、「80代超と高齢になると効果は小さいかもしれない」と井原医長。80代の認知症は、純粋なアルツハイマー型だけでなく、レビー小体型や脳血管障害なども複合した認知症が増えるからだという。

エーザイの予測では、レカネマブの適用患者は2031年度に年間3万2千人。厚労省が500万人と推計するアルツハイマー病による軽度認知障害と軽度の認知症患者のごく一部にとどまる。投与できる患者も医療機関も限られるのが現状だ。

とは言え、高齢の認知症患者には希望がない、と諦めるのは早計だ。

「抑制効果は十分ではないとは言え、病態の根本に働きかける薬の登場は大きな一歩で、これからより効果の高い認知症薬が世に出る可能性も高まっています。そうすれば、患者の状態や希望に応じて薬の選択ができるようになります。アリセプト以降も研究は続けられてきましたが、なかなか新しい薬は完成しませんでした。今回のレカネマブは新時代へ向かう第一歩であり、社会的意義は大きいと考えています」

新時代の展開にも期待したい。

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